読書備忘録

読書備忘録

意味のある読書にするための備忘録

『服従の心理』S・ミルグラム

途中書き 

 

ホロコーストの一翼を担ったユダヤ人を強制収容所へ輸送する列車の最高責任者アドルフ・アイヒマンは狂気的なサディストだと考えられるが、アイヒマン裁判に際して彼を調べ上げた結果、彼は全く”普通の人間”であった。この”普通の人間”アイヒマンは「命令に従っただけ」と裁判内で自分の無罪を主張しました。本書「服従の心理」では有名な「ミルグラム実験」を通して人間は権威に服従して道徳的に考えればありえない攻撃性を持った行動をとってしまう、つまり"普通の人間"である私やあなたも環境が違えばアイヒマンになっていたかもしれないという他人事ではない恐ろしい人間心理を暴く。

 

服従の心理 (河出文庫)

服従の心理 (河出文庫)

 

 

 

メイン実験

一般に「ミルグラム実験」と呼ばれる実験の詳細について紹介する

 

実験の前提

 

手順

場所はイエール大学の研究所。登場人物は「先生」役を務める被験者1人と「実験管理者」と「生徒」役を務める実験者2人。生徒役の実験者の方は被験者と同じ参加者として実験に参加して、つまり被験者と実験者の2人で実験を行う。

 

実験目的は「人が各種の事柄をどう学習するかについての理論を検証するために、学習において間違えた時の罰が学習者にどんな影響を与えるか調べたいので罰を与える先生役と問題を解く生徒役に別れる」と説明し、くじ引きによってどちらの役をするか決める。この時くじ引きには細工(両方「先生」と書いてある)がしてあり被験者が先生役を務める。つまり、罰を与える先生についての実験である。

 

実験の概要は生徒が問題を間違えたら先生が電流を流す罰を与える、間違える度に電流を大きくしていくがその時先生の行動はどう変わるかというものである。電流は15Vからはじめて450Vまで大きくする。

 

 

実験管理者からのフィードバックは次の4つを順番に投げかける。

  1. そのまま続けてください
  2. 続けてもらわないと実験が成り立ちません
  3. とにかく続けてもらわないと本当に困ります
  4. 他に選択の余地はないんです。絶対に続けてください。

また、

 

 

試行錯誤

はじめはボルトの数値・言語表示だけで権威に歯向かうには十分だと思っていたがこれだけだと全く権威に不服従する人間が現れなかった。なので被害者の声を聞かせることで不服従の可能性をあげることを目指した。これは一般の人間のみならず実験を考えた研究者自身も権威の力の強さを見誤っていたことを表している。

 

結果
  • どれだけ感情的になっても敬語が途絶えることはなかった

 

サブ実験

本書では先のメイン実験含めて18の実験が紹介されている。特に興味深いものだけ簡潔に紹介する。

被害者との近接性

メイン実験では被害者の姿は見えない状態お互い別室で実験をしていたが、同じ部屋で声だけではなく苦しむ姿も見えるようにする。

 

この理由としては、①相手への共感が増した、②実際に人が苦しんでいることを確実に認識して意識外に置くことが難しくなった、③お互いに相手が見れることにより相互作用(相手に対する恥や罪悪感、報復の恐れ)が生まれた、④ボタンを押す行為と電撃が流れて被験者が苦しむ行為の行動の連続性を明瞭に認識した、などが考察されている。

権威者との近接性

 

自由に電流の大きさを決める

この実験が行われた理由は

学習者が
役割の入れ替え
直接手を下すのは別の人

 

考察①服従のプロセス

 

 

考察②緊張と非服従

 

服従のメリット

基本的には「服従は悪いもの」という前提で話は進むが、服従の心理とはそれが作り出すヒエラルキーが生存に有利だったから人間の心理特性として定着したのである。これは社会全体的な話だが個人にとって服従が有利に働くこともある。それは服従することで「考えるコストを削減することができる」ということだ。 自分の頭で考えることなく何でもかんでも服従していれば良いとは思わないが、何でもかんでも人の言うことを疑っていては時間が無くなってしまうのである。「服従」は裏を返せば「信頼」であるという言葉も紹介(ただし言っていたのはミルグラムじゃなくて訳者の山形さん)されていました。良いところと悪いところを考えて生きていくという目線も大事であろう。

 

ひとこと

 

服従の仕組み云々よりも心理学研究の面白さが詰まってるからみんな本買って読んでくれというのが感想です。仮説を立てて、それを検証するための実験方法を考えて、実験して考察して、さらなる仮説を立てる。本書ではこの繰り返しで18の実験が紹介されているが仮説・実験内容共に面白くここの思考プロセスをもっともっと深掘って知りたい。

実験結果のひとつとして、被験者インタビューもいくらか載せてあるがこれもとても興味深い。数字だけでは見えない人間らしい思考の変化に触れることができるし、共通点と相違点とそれを生み出す要因がありありと浮かび上がってくる。惜しいのはこれが英語で話されたインタビューの翻訳であること。日本で日本語で行われた実験であれば言葉のちょっとした違いなどを含めて私にとってもっと興味深いものだったんだろうと感じる。

テーマは権威による「服従」だが、実験インタビューなど被験者の発言を見ていると悪辣な行為を行った時の行動の自己正当化行動も

 

私がこの本を読んだ目的は「自分もしくは他人を服従させる方法」、「自分を服従から守る方法」 を学ぶためである。前者に関しては自分を自分に服従させることができたら正しいけどめんどくさい意思決定をするのがめっちゃ楽になり、女の子を服従させられたらえっちで嬉しい、後者に関しては自らがアイヒマンにならないため及び服従した方が良い場面と服従してはいけない場面を見極める視点が欲しかったからである。ということでこの本から学んだ服従させる、服従から逃れるため(こっちはほぼ書いてなかったから勝手に私が考えたものなのでふわふわしてる)の方針について簡単ににまとめる。

 

服従させて悪いことさせる方法

  • 責任の所在を相手から取り除く
  • その行動が正当となるような大義名分・価値基準を与える
  • 権威のある肩書き、服装、行動、話し方を心がける
  • 自分の持つ権威とつながる行動を命ずる
  • 行動をすること/しないことに責任を感じさせる
  • 簡単なことからはじめてあとは「はじめさせる」ではなく「続けさせる」
  • 被害者の責任を強調する
  • 被害者を見えない、認識させないようにする
  • 間接的に悪いことをさせる

 

服従から逃れる方法 

  • 「権威による服従」の存在を認識する
  • 大義名分を疑う
  • 人と発言や命令を分離して考える
  • これ小学生が同じこと言ってたら・・・?という姿勢で見てみる

 

これができるならみんなしてるという話は自分で書いてて強く感じたが「権威による服従」という心理特性を知っていて、これを疑う姿勢を少しでも持っているというのは服従から逃れるちょっとした助けにはなると考えています。

まあ、でも対策側すごいふわふわしてるのでこれ逃れるの無理じゃね・・・???ってのが私の結論です。みなさん服従させましょう!!

 

 

『ユートピア』トマス・モア

イギリスの制度・社会への批判として描かれた世界中で最善の国家であり、真の共和国である”どこにもない国”「ユートピア」を味わう。

ユートピア (岩波文庫 赤202-1)

ユートピア (岩波文庫 赤202-1)

 

 

 

ユートピア」を旅したヒスロディについて

 

私(トマス・モア)が世界中を旅して多くの知見を持つヒスロディに対してその優秀な頭脳を持って王に仕えてイギリスを救ってくれと懇願するがヒスロディは拒否する。

 

ヒスロディが拒否した理由は、

  • 王様に仕えるのは奴隷として働くようなもの
  • 王様と側近は戦争のことばかり考えていて、ヒスロディが平和の維持や福祉の増大について助言しても聞いてもらえるわけがない

 

ヒスロディはイギリスの社会・制度の問題点の1つとして「窃盗が死刑」であることを挙げる。

  • 犯した罪と刑罰の重さが違いすぎて正当な法律であるとは言えない。窃盗犯と殺人犯、謀殺犯が同じ刑罰を受けるというのは明らかに道理に合わない。
  • 盗みの原因は貧乏であり、厳罰化では一切関係しない。貧乏は現在の社会構造によって引き起こされたものでありその被害者を死刑にするのは不誠実な国家である。
  • 貴族や紳士などの金持ちが羊の飼育で多く儲けるために百姓の土地を奪って迫害している。結果として困った百姓が盗人化して死刑になっているという現状がある。

これらを枢機卿に進言をしても特に意味は無かった。

 

 

ヒスロディは、プラトンの「国家」に由来する考えとして

  • あらゆるものの平等が確立されることこそが大衆の幸福への唯一の道
  • 私有財産を持っている限り平等は起こりえない

というものを持っている。これを実行していて、かつ平和と高い生産性を維持している「ユートピア」という国についての詳細を私(トマス・モア)に紹介してくれるという体裁で「ユートピア」についての諸々が語られる。

 

以下の章でユートピアの性質のうち特徴的でトマス・モアの思想が現れているものをいくらか紹介する。

 

地形・都市の形態

  • 独立した島国であり入国の水路はユートピア人しか知らない。正規以外のルートで入ろうとすると元々の自然に人口的に手を加えた強固な水流による要塞によってどんな大海軍でも全滅する。(つまり外敵に対して極めて安全)
  • 54の都市が存在して、都市の形態は地形が許す限りなるべく同じように建物などを設計する

政治

  • すべての物資が平等に分配される
  • 54の都市すべてで言語、生活様式、制度、法律が同様
  • 各都市は都会と田舎があり、田舎では40人程度の農場住宅を立てる。田舎に2年間滞在した人は半分(20人程度)が都会に行き、都会から同人数の人が来て入れ替わりをする。これは農耕がやりたい人は農耕をして、そうでない人は他のことを仕事にできるようにするための仕組み。
  • 都会では14歳前後の子供の数を一定に保つことで人口調整を行なっている。
  • 病院・医療に注力している。どれだけ病人が増えても決して混み合わないような大きな病院を作り、のびのびと暮らせるようになっている。また医療機器や腕利きの医師が常駐して対応してくれる。
  • 市議会か選挙場以外で政治に関する協議をした者は死刑。人民の弾圧、陰謀の企みの防止が目的。
  • 市議会での議論ではどんな議題であっても提案された当日中に決定することはせず次の市議会まで決定を先延ばしする。これは咄嗟の考えによる決定の防止、体裁のために意地だけで理屈を付けることの防止が目的。

 

仕事・学業

  • 全ての人が基本の農業に加えて毛織業、亜麻織業、石工職・鍛治職・大工職の中からひとつの特殊労働に関する知識を学ぶ
  • 労働時間は一律6時間。他国と比べて労働時間が少なく見えるが、他国では働いていない者(女、貴族、乞食)が多く、このような人間を作らず全員働くことで生活品、文化品共に十分な量を生産できる。
  • 学業は一部の選ばれた人だけが義務として学ぶ。
  • ユートピア人は哲学者の名前をひとりも知らないが、音楽・論理学・算術・幾何学には詳しい。
  • 占星術など人を誑かす占いの類は誰も夢想すらしたことが無い。

 

  • 金銀は便器か奴隷の手枷・足枷など汚いものや身分の低い者の飾りに使う。ユートピア人がそのもの自体に価値がほとんど無い金や銀に興味を持ち私利私欲による行動を取ったり、戦争や外交に際して他国との交渉のための金銀を没収した時に強く抵抗することが無いように習慣付けさせる聡明な策略である。実際にユートピア人は金銀を抵抗なくあっさり投げ捨てる。ユートピア人に取っては人間によって使われることによって価値を持った金銀が人間自体よりも優先されている他国の現状を理解できない。
  • 金に関しても私有のものは一切無い

 

生活

  • どの家も表口と裏口の2つがあり、鍵など閉めず入ろうと思えば誰でも入れる。これは家の中に私有のものがひとつもない政体による。
  • 衣服は全都市で同じような型で、見た目がさっぱりしていて、動きやすく、夏でも冬でも適したものをずっと着ている。特に仕事中は7年間持つような丈夫なものを着ている。服を多く持っていても寒さを防げるわけでもないし、見かけがよくなるわけでもないという思考によりごく少数しか服を持たない。
  • 昼食と夕食は市民が全員集まって会館で食事を取る。座席は若者と高齢者が交互になるように割り当てられる。これは高齢者の態度と存在が若者の自由奔放な行動を抑制することを期待して、また高齢者から料理を配るのを見せることで高齢者の威厳を保つため。

交際・結婚

  • 夫婦の契りを破ることは重罪で奴隷刑
  • 結婚相手を選ぶ際はお互い全裸を見えあって特に男が女を選ぶ際に肉体上の欠陥にあとで気付いて後悔するというリスクを無くす。
  • 結婚には市議会の了承が必要

法律

  • 法律の数がごく少数。いたずらに量が多く、難解で何を言ってるか分からない法律で市民が縛り付けられるのは不合理である。法律は明白であるほど公正なものである。
  • 法律を理解することは市民の義務を理解することであり、義務を思い出すことができない理解できない法律は存在価値がない。
  • ユートピア人は皆自国の法律に詳しく、裁判において悪知恵を働かす詭弁家である弁護士はいない。
  • 死刑よりも奴隷による労役を課すことで国に対する利益を生み出す
  • 犯罪は実際に犯したものと、企画し他もので全く同じ扱い

奴隷

  • 生き物を殺すなど不浄の仕事は全て奴隷にやらせる。
  • 戦争敗戦国の市民、奴隷の子供、他国の奴隷を奴隷にしない。
  • 奴隷になるのは①自国の凶悪犯罪者②他国の死刑宣告を受けた罪人③他国の奴隷のうちユートピアの奴隷を志願する者だけ

戦争

  • 戦争をする理由は3つだけ、①自国を守る②友好国への侵略者を撃退する③友好国民を圧政から救う
  • 友好国への対する不法行為に対してはそれが金銭問題でも責任を追求するが、自国にへの不法行為は身体的に暴力を加えられない限り貿易中止程度の仕返ししかしない。ユートピアにおける財産の損失は国民の有り余る共有財産の損失でしかないから気にしないが、友好国による不法行為によって友好国と取引していた商人が受ける損失は個人によるもので被害が大きいので厳しく追及する。
  • 自国民はなるべく戦わず傭兵を雇って戦う。傭兵に費やす有り余る金、銀でありお金を出すことには一切惜しまない。国民の命の方が金よりよっぽど大事である。
  • ユートピア人は善人は善用、悪人は悪用しようという思想を持つので悪人である傭兵の命を落とすことはむしろ悪人の排除による世界貢献であり、報酬も浮いてラッキーと考えている。
  • 戦争終了後に力を貸した友好国には一切支払いを要求せず敗戦国に全額賠償させる。

外交

  • 外国とは同盟を結ばない。
  • 人間は条約による同盟よりも愛と寛裕、誠意によって強く結ばれるという信念を持つ。
  • 外国に然るべき時に返済をしてもらうという約束でお金をどんどん貸し与える。しかも返済要求することは戦争でお金が必要になる時だけ。
  • ユートピア人は金銀を求めないので貿易商人は滅多にこない。

宗教観

  • 唯一の神ミスラの存在を信じるという点では一致しているが、神に対する解釈は個人次第。
  • 好きな宗教を信奉することや他人に自分の宗教を平和的に勧めることは合法だが、他の宗教を非難攻撃したり、暴力によって改宗を迫るのは追放か奴隷刑。宗教争いは平和を破壊するものとユートピアの王は理解している。
  • 快楽を享受すること、楽しい生活を送ることを善とみなす。ただし自然に喜びを感じるような快楽に限る。
  • 隣人のために親切にして、隣人が楽しく生きるための助けをすることが善ならば自分に対して親切にして、楽しく生きることも善で無いとおかしい。
  • 快楽には心の快楽と身体の快楽があるがユートピア人は心の快楽を重視する。心の快楽は、瞑想をする、徳のある行動をとる、良い生活をしている自覚などで得られる。身体の快楽で最も上位に位置するのは健康体であること。
  • 快楽の裏には苦痛がある。飲食による快楽の裏には飢餓による苦痛がある。快楽を多く求めると必ず苦痛も伴い、苦痛は快楽よりはるかに強力なので快楽を求めすぎないほうが良い。

ヒスロディの主張

  • ユートピアこそが最善の国家であり、唯一真の共和国の名に値する国
  • 何ものも私有でない国では公共の利益が熱心の追求される
  • 貴族や金属商人、娯楽の創案者などに多額な報酬を支払い、本当に生活に必要なものを生産する労働者を冷遇するのは不正で不人情な国家である
  • 不合理な法律の力によって正義の名の下で金持ちは不正行為により貧乏人から搾取している
  • 貨幣がなくなれば平等になる

ひとこと

当時の歴史的背景をよく知らないので現代人の私から見ると本書で書かれる共産主義の成れの果てのような国には「ユートピア^^ ディストピアじゃん^^」という感想だが、この本が社会主義共産主義の概念が確立されるよりずっと前の1516年に書かれたということを考えると見方が変わってくるのかなと思う。また資本主義の発展の要因を取り上げてユートピアの特徴と見比べてみたい。特に金という実体の無い虚構に対する捉え方は資本主義の発展を語る時と平等な理想郷を語る時では大きく違うものでメリット・デメリット今一度挙げてみるのは面白いだろう。

現実性の無い理想論を掲げた話だが勉強分野や金銀の評価の面では超理論的な思考を愚直に実践しているという点は矛盾が感じられて面白い。

 

『君たちはどう生きるか』吉野源三郎

2017年の漫画化と同時に書店で見かけないことがないほど人気を誇り続ける古典「君たちはどう生きるか」 。コペル君の体験と叔父さんの考えを参考にしながら「君たちはどう生きるか」という問いについて今一度考えてみようと思う。

 

君たちはどう生きるか (岩波文庫)

君たちはどう生きるか (岩波文庫)

 

 

この本の主な登場人物は主人公の中学生コペル君、中学生の友達、近所の叔父さんで「コペル君の中学校での体験→叔父さんとの会話→叔父さんのまとめ」という流れで話が進んでいくが、ストーリー部分を要約することに価値はないので思考・価値観の部分だけ引っこ抜くもしくは私の勝手に抱いた感想をだらだら書いていきます。

 

 

ものの見方について:「人間は分子」

 

「人間って分子みたいだね」これは作中でのコペル君の発言で、これは「自分中心に世界を見る」から「世界を俯瞰して見て、自分を広い広い世界の中の一部として見る」に変わった大きな思考の変化である。これは地球を宇宙の中心であると考える「天動説」から地球を宇宙の中の天体のひとつであると見る「地動説」へと定説が覆されたくらい大きな変化である。作中では先の発言を地動説への変遷と絡めて主人公は「コペルニクス君」縮めて「コペル君」と呼ばれるようになった。

 

子供の頃は自分中心的な天動説のような考え方で、大人になるにつれ地動説のような考え方になってくる 。しかし、人間は損得に関わる場面など多くの場面で天動説な考え方をしてしまっている。自己中心的に、自分の都合の良いところだけ見るような考え方ではものごとの真相は見えてこない。

 

立派に生きる

 

「世の中とはこういうものだ。その中に人間が生きているということには、こういう意味があるのだ。」と一言で他人に説明することは誰にもできない。過去の偉人の思想を本で勉強したり、立派な人間から話を聞いてそれを実行しようとしても「立派そうに見える人間」になるばかりである。「立派な人間」になるためにはまず自分で経験してそこで何を感じたか、何に心を動かされたかについて考えなければいけない。この中に自分の思想があり、この実際の体験によって構築された自分の思想に正直に生きていくのが「立派な人間」である。「誰がなんて言ったって・・・」というような心の張りを持って自分の信念に従って善悪を判断して行動をしていくことが重要である。

 

 

自分の行動は自分の気持ちによって決めるべきである。それに対して他人がどう思うのかは関係ない。他人の考えることを自分が決められるなどという傲慢な考えを持たずに自分のできることを自分の信念に従って行うことが重要である。

 

ニュートンはいかにして重力を発見したか

 

作中で叔父さんが大学生の友達に聞いたとして紹介される話を要約する。

まずニュートンが発見したのは重力の概念ではなく(支えが無くなったら物が落ちるということはガリレオの落体の法則で分かりきっていた事実である)、地球上の物体に働く重力と天体の間に働く引力の2つが同じ物理法則で表せるものだと実証したことである。どうやってこの2つを結びつけることが出来たのかという謎に対する仮説が以下である。

「3〜4mの高さからリンゴが落ちたのを見たニュートンは、これが10mの高さから落ちたとしたらどうなっていただろう?距離が変わったとしても今見たのと同じようにリンゴは落ちるのは当然だろう。では15mだったら?では100mだったら?では1000mだったら?・・・では月の高さから落としたら?リンゴはどれだけ高くから落としても重力が働く限り落ちてくるはずだ。しかし、月は落ちてこない。それはなぜか?月が落ちてこないのは地球が月を引っ張る力と月が地球の周りを回ることで働く遠心力が釣り合っているから。リンゴの例からすると月にも重力は働いているはず・・・?これはどういうことだろう?」

 

偉大な発見というのは案外簡単なところからはじまっている。分かりきっていることについて「Why?」をどんどん追っかけていくと分かりきっているなんて言えないことにぶち当たるのである。

 

人間同士の繋がりについて:「粉ミルクの秘密」

 

赤ちゃんの時飲んでいたオーストラリア産の粉ミルクを見て、オーストラリアの牛からコペル君の口に粉ミルクが入るまでにどのような経路を通るのかを考えてみた。

粉ミルクが日本に来るまで:牛の世話をする人、乳搾りする人、絞った乳を工場に運ぶ人、工場で加工する人、缶に詰める人、缶を荷造りする人、汽車に積み込む人、汽車を動かす人、汽車から港に運ぶ人、汽船に積み込む人、汽船を動かす人

粉ミルクが日本に来てから:汽船から荷を下す人、倉庫に運ぶ人、倉庫の番人、売りさばきの商人、広告をする人、小売の薬屋、薬屋まで運ぶ人、薬屋の主人、薬屋から自宅まで運ぶ人・・・

このようにとてつもなく多くの人が関わっていることが分かった。これは粉ミルクに限らず例えば先生の洋服や靴についても同様だった。

これらからコペル君が見つけたのは「人は知らないうちに見たことも会ったことも無い大勢の人と網目のように繋がって生きている」ということ

 

これは経済学で社会学で「生産関係」と呼ばれるものだが、今や人との知らない大勢の助けを無しには誰も生きていけないというのが人間である。現在のグローバル社会ではさらに広く、さらに密になっている。だからこそお互いに助け合う利他的な精神が人間には必要であり、これこそが人間らしいと言える。しかしながら小さいことから大きなことまで様々な争いが今でも続いている。どうすれば利他的な人間らしい関係を結ぶことができるだろうか考えてみるべきである。

 

人間らしい関係とは「お互いに行為を尽くし、それに喜びを感じられる関係」。母親は子供のために何かしてあげてもそれに対して報酬を欲しがったりしない。仲の良い友達に何かしてあげられたらそれは対価など無くてもそれ自体が嬉しいことである。

 

貧乏について

 

貧乏人というのは何かにつけて引け目を感じてしまう生き物である。しかし、彼らを見下してはいけない。裕福な人間は世界の大多数が貧乏な人間であり、その貧乏な人間の生産を消費して生きていることを認識するべきである。そのことを考えたら彼らに対して感謝することはあっても見下すことはしてはあってはならないのである。今風に言うと頭が良く創造的な仕事に従事して高給の人であっても力仕事をしたり、生産過程の最低辺で仕事をする薄給の人を馬鹿にすることなかれ。また恵まれた環境に生きる人は恵まれた環境に生きていることを自覚し何をすべきかを考えるべきである。

 

「ありがたい」という言葉は「有り難い」であり、本来の意味は「そうあることが難しい」という意味だ。自分の置かれている状況がめったにあることではないと思うからこそ感謝する気持ちになり「ありがたい」という言葉になるのだ。自分の置かれている状況について今一度考えて見てそれが当たり前ではなく「有り難い」状況であることを感じて感謝の心を忘れないようにしよう。

 

中学生のコペル君への叔父さんの質問「君は毎日の生活に必要な品物という点で考えると何一つ生産せずに消費ばかりしている消費の専門家だ。しかし、自分で気づかないうちに他の点である大きなものを日々生み出しているのだ。それはいったい何だろうか?」この答えは提示しないけど、人間であるからには一生のうちにこの問いへの解答を見つけなければいけない。

 

偉大な人間とは

 

偉大な人物とは人類の進歩に役立った人物である。彼らの成し遂げた事業のうち価値のあるものは人類の進歩の流れに沿って行われたことだけである。「彼はその行動でいったい何を成し遂げたのか?」と質問を投げかけることが偉大な人間について知る鍵となる。

 

失敗や苦痛をどう捉えるか

 

失敗や苦痛に関する偉人の言葉が紹介されていたので引用する。

ゲーテ「誤りは真理に対して、ちょうど睡眠が目覚めに対すると、同じ関係にある。人が誤りから覚めて、よみがえったように再び真理に向かうのを、私は見たことがある。」

パスカル「王位を奪われた国王以外に、誰が、国王で無いことを不幸に感じる者があろう。ただ一つしか口が無いからと言って、自分を不幸だと感じる者があろうか。また眼が一つしか無いことを、不幸に感じない者があるだろうか。」

 

失敗や苦痛は正常な状態で無いことから生じる。しかし、風邪を引いてはじめて身体の正常な状態を知るように一般的に失敗や苦痛を経験しないと正常な状態を意識することは出来ない。だから失敗や苦痛は人間が本来どういうものであるべきか、自分がどうあるべきかを知るチャンスだと考えることができる。失敗や苦痛を真摯に受け止めることは難しいことだが人間が絶対やらなくてはいけないことである。死んでしまいたいほどに自分を責めるのは正しい生き方を求めているからこそであり恥じることではない。

 

ひとこと

一番の感想は本の読みやすさと没入感。思考や価値観といった難しい話をストーリー仕立てにすることによって興味を持って苦労無く読ませているという点こそが流石は2018年に漫画化されて大流行した秘訣だと感じた。人にものを伝える時に自分の考えを表現するのにそれに合ったストーリーを展開して説得することの重要性を改めて感じた。

 

ざっくりとまとめると「人間社会を俯瞰的に見て自分は大きな世界の一部、協力関係は必須さであるという考えを持ちながらも自分の行動と他人がそれをどう思うかを分離して考えて自分の信念に正直に世の中のために行動をしろ」

 

失敗を成功への前進と捉えるのでは無く、失敗そのものに価値を見いだすのは面白い考え方であり他ではあまり聞かない考え方で興味深い。失敗した時に「では正解は何だったか?」と考えるのは新しい発見につながる思考法だと思うし、失敗や苦痛を正常な状態からの乖離と捉えて「それが本当に失敗なのか?」「それは本当に苦痛に感じる必要があるのか?」「そもそも自分が正常な状態と認識しているのは正しいことなのか?」と考えることで悩みも激減しそう。人の相談に乗ってカウンセラーのように対応する時に提示する思考法としての有用性も感じた。

 

『君主論』マキャヴェッリ

どんな手法や非道徳行為も結果として国家のためになれば許されると言う「マキャベリズム」の語源であるマキャベリによって書かれた理想論を斬り捨て実際を重視する君主の考え方を示した「君主論」。現代とは異なり負けたら亡国、死罪という時代背景の中生まれた思考だが役に立つ考え方もあるだろう。

 

君主論 (古典新訳文庫)

君主論 (古典新訳文庫)

 

 

 

君主政体の種類と獲得方法の種類(1章)

 

国家の統治形態は、共和政体と君主政体の2種類。

君主政体の種類は、世襲によるものと革命家による新しいものの2種類。

獲得した領土は、君主による統治に慣れているか、自由な生活に慣れているかの2種類。

獲得方法は、他者の武力によるもの、自前の武力によるものの2通り。

獲得できた理由は、自分の実力か運かその両方かである。

 

統治について(2章~11章)

 

新しく獲得した土地を支配する有用な方法は、①自らそこに住む、②植民を送り込む。新しい土地に対する支配・統治は意図的に実行しなければいけない。

 

 

統治する場合の人民への対応はたった2つで甘やかすか、抹殺するか。

 

 

軽微な危害に対して復讐は起きるが、深刻な危害に対して復讐は起こせない。危害を与える場合には復讐ができない程徹底的にやらなければいけない。

 

 

賢明な君主は現在の争いだけではなく、将来の争いのことも考えなくてはいけない。あらかじめ予見していなくて事が起きてから対応するのでは手遅れになる。争いの早期発見と対処に全力を傾けるべき。

 

 

世襲制の君主国家を倒した時にやるべきことは君主の血筋の全滅。

 

 

自分たちのルールで生きてきた国を統治する際にはもっとも良い方法は国家を滅亡させてすべてのルールを破壊することである。

 

 

迫害行為は一気に短く行う。恩恵は少しずつ長い期間に渡って与える。

 

 

 

君主は貴族よりも民衆を味方につける方が重要である。貴族が求めることは抑圧することだが、民衆が求めるのは抑圧されないことであり、民衆の欲求を叶える方が遥かに簡単である。民衆は貴族と比べて遥かに数が多いので敵に回すと大変である。

 

 

危害を加えるだろうと思っていた人物からの恩恵はより一層恩義に感じる者である。いわゆる映画のジャイアン効果は君主と人民の関係でも成立する。

 

 

軍備について(12章~14章)

 

国家の土台は法律と武力。武力を持たないところに良い法律はなく、武力を持つところに良い法律はあるので武力が大事。

 

 

傭兵や援軍に頼ることなく自軍で戦うべきである。傭兵はやる気の無さ、援軍は戦争勝利後の反逆という大きな問題を抱えている。

 

 

君主は軍事戦略のことのみを考え続けるべきで、他のいかなることにも夢中になってはいけない。

 

君主はどういう価値観・思考を持つべきか(15章〜26章)

 

常に善の道を進むだけでは上手くいかないのが世の理なので、君主は状況に応じて悪の道を進み、悪の評判を立てられることを恐れてはいけない。

 

 

君主が気前よく振る舞うことは辞めるべきである。気前よく振る舞うためには君主が貧乏になり尊敬を失うか、人民に重税を課して憎悪を抱かれるかどちらかに陥る。使えるお金の総量は一定なので、誰かに気前よく振る舞うということは別の誰かにケチケチするもしくは害することになる。一部の人に気前良く振る舞うために多くの人民にケチケチすることは良いことかどうか考えるべき。

 

 

人民に対して慈悲深く振る舞う結果として国を奪われて人民を略奪と殺戮の被害に巻き込むよりも、人民のごく僅かに対する残虐な処罰により国力を維持する方が遥かに良い。

 

 

君主は愛されるのと恐れられるのとどちらかを選ぶのならば恐れられることを選ぶべき。人は恩知らずで、移り気で、猫被りで、空とぼけていて、危険を回避して、儲けることに貪欲なので必要に迫られれば裏切る。人は恐れられている者よりも愛されている者を躊躇いなく裏切る。人を繫ぎ止めるには愛によって繫ぎ止めるより恐れによって繫ぎ止める方が優秀である。君主が愛されるときの主体は人民、君主が恐れられるときの主体は君主。君主は自分の意思に基づいて動くべきであり、他人の意思に基づいて動くべきではない。

 

 

愛されなくてもよいが憎悪されてしまうのは問題である。憎悪されずに恐れらることは両立可能である。処罰には正当な理由が必要。身内の死よりも財産を奪われる方が長い憎悪を生み出す。

 

 

闘いには2つの種類があって、1つは法律によるもの、もう1つは力によるもの。君主は人と野獣の性質を併せ持つ必要がある。さらに野獣の性質に関してはライオン(武力)と狐(頭脳)を併せ持つ必要がある。

 

 

信義を守ることにより害が発生する、信義を守るべきに約束した理由が無くなった時には信義は守るべきではない。善を目指して騙されてはいけない。

 

 

騙そうとする人間は常に騙されるがままになっているカモを見つけることができる。

 

 

慈悲深く、信義を守り、人間味があり、誠実で、信心深いという性質が善であり、これらの資質を満たしているように振る舞うべきである。しかし、必要に応じてこれと全くの反対の資質を発揮する人物になりきることできなければいけない。

 

 

君主を裁くものはいないため、君主は結果で判断される。結果さえ立派なものであればそれを達成するための過程は重視されない。大衆は外見と結果だけを見て君主を評価する。

 

 

憎悪は悪行によってのみ発生するのではなく、善行に対しても発生する。状況に応じて彼らを満足させるに何を求められるかを考えて行動を決定するべき。

 

 

人に憎悪を抱かせない方法として次々と戦争や事業を起こして人民に冷静に考えさせる時間を与えることなく実績により自分の地位を強固にするというものがある。

 

 

人の頭には3種類ある。第一に自分の頭で考えるもの、第二に他人の考えを理解するもの、第三に自分の頭で考えられず他人の考えも理解できないもの。一番目が飛び抜けて優れていて、二番目も優秀だが、三番目は無能。君主は一番目でなくても二番目であっても良い。その際は良い側近が必要である。

 

 

すべての人民が君主に本当のことを言って助言ができる環境であれば君主は尊敬されなくなる。選ばれた一部の人間だけが君主に本当のことを言える環境を作るべきである。彼らの助言を聞いた上で決断は自分で行い、反論が出たとしてもその決断にこだわり続けなければいけない。助言を求めるタイミングは相手が望むときではなく自分が望むときだけ。本音を言わない助言者を許してはいけない。良い助言をもらったとしても君主が思慮深くなければそれは活かされないということを覚えておく。

 

 

運命に頼り勢いで目標を達成した者は運命の変化によりすべてを失う。運命は適切な力量による備えによって防ぐことができることも多い。例えば大雨という運命による災害は防ぐことができないが、堤防を立てるという適切な備えによって被害を減らすことはできる。

 

 

運命は女のようなものである。慎重に接するより荒々しく大胆に支配をする若者に女がなびくように、運命もまたそういった若者になびくのである。

 

ひとこと

まず君主論の話の進め方について、明確に「意味のある分類→それぞれの特徴説明→それぞれの対策の伝授」と分割して議論を進めているのが特徴的。今風に言うと意味のあるMECEに分けた上で順序立てて議論を進めて行くというまさにコンサルタントのプレゼンであり驚いた。

 

 

人民を一切信用せず、人間の持つ悪い点に注目して行動指針を定めるのは絶対に失敗できない(失敗したら国は滅びて、君主は殺される)状況ならではの思考・価値観であるが、現代でも通ずるところはある。古典にありがちな度を超えた慎重、度を超えた準備の大切さを説いたものについては早く成果を出すことが求められ、失敗しても次がある現代において参考にしすぎてはいけない面もあるとは感じている。

 

 

君主は理想論ではなく実際的な行動をするべきと強く唱えている一方で君主が理想的な姿だと人民に思われてるということを大切にしているのが実的な話だけでなく心理の影響も考えていて面白い。

『孫子』

戦争に勝つための指針を理論化した「孫子の兵法」。戦争でいかに効率良く勝利をおさめるかについて書かれている本書だが、これは現在の経済という戦争の地で戦う経営者がどのような経営戦略を打ち出すべきかに通ずるところがある。

 

新訂 孫子 (岩波文庫)

新訂 孫子 (岩波文庫)

 

 

 

解説

 

孫子」が戦争本として異例な部分として3つ特徴があげられる

  1. 戦争をしないことを目指していること
  2. 現実主義的であること
  3. 主導権を握ることを重要視していること

計萹

 

道、天、地、将、法の5つの項目について敵と味方のレベルを比べることで戦わずして勝敗を予想することができる

道:政治の在り方

天:自然の状況、季節・気温・天気・自然災害など

地:土地の状況、道・地形など

将:将軍の能力

法:軍隊編成の法規や官職の治め方

 

 

戦争とは詭道である。敵に味方の状況を正しく認識させてはいけない。味方は敵の状況を正しく知り敵情に応じて効果的な策を打つ。

 

 

事前の目算で勝ち目が多いときは勝つ、勝ち目が少ない、もしくはない時は負ける。無謀な戦争を仕掛けてはいけない。徹底的な事前調査により勝てると判断した時だけ仕掛けるべき。

 

作戦萹

 

戦争を長期化させてはいけない。戦争が長期化して国家に利益をもたらしたことは今までにない。

 

 

戦争の損害を知らないものは戦争の利益についても知らない。戦争の損害についてしっかり考えるべきである。

 

 

感情のために敵兵を殺してはいけない、利益のために物資を奪い取れ。降参した兵を利用して自軍を増強するべき。

 

諜攻萹

 

戦わずして勝つのが最善で、戦って勝つのはこれに劣る。100戦100勝は最善とは言えない。

 

 

戦争時の作戦ランキング

  1. 敵側の陰謀を打ち破る(相手のやりたいことをやらせない)
  2. 敵の連合国軍との外交関係を破る
  3. 敵の軍を倒す
  4. 敵の城を攻める

 

 

弱者が根性論で強者に向かっていくのは強者の思う壺であり愚策。味方より敵の方が強いのならば逃げろ、隠れろ。

 

 

勝利のための5原則

  • 戦うべきときと戦わざるべきときをわきまえる
  • 強者と弱者それぞれの戦い方を知る
  • 上下の人が同じ気持ちを持っている
  • よく準備を整えて油断している敵に攻撃する
  • 将軍が有能で主君がこれに干渉しない

 

 

敵の状態を知って、味方の状態を知っていれば、百戦戦っても負けることはない。勝てるではなく負けないという表現であるのが孫子で一貫している考え方である。

 

形萹

 

戦いが上手い人は自陣を堅めて待ち、敵が自滅するのを待つ。防御を目指すと兵力がに余裕ができるが、攻撃を目指すと兵力が足りなくなる。よって、負けない形を作って敵の隙をうかがうべし。

 

 

勝つ軍は開戦前に勝つことをシュミレーションできた上で戦争を仕掛けるが、負ける軍は戦争をはじめたあとで勝利のプランを練りはじめる。

 

勢萹

 

戦いの上手い人はひとりひとりの人の資質に頼らずに、総体的な軍の勢いによって勝利を目指す

 

 

戦いの形は水の流れのように固定した形を持たず流動的な無形なものである

 

虚実萹

 

主導権を持つことは重要である。相手を思いのままにして、自分は相手の思いどおりにはさせない。

 

 

先に戦場にいて敵を待っている方が、後から戦場に駆けつける方よりずっと楽である。

 

 

軍の形は無形であるべき。

 

軍争萹

 

相手より後から出発して相手より先に着く「遠近の計」を知るものが戦争に勝つ。

 

 

初期状態として100人の兵士を連れていたとして、百里先で戦いを起こすとそこまで行き着くのは10人、五十里先で戦いを起こすとそこまで行き着くのは50人、三十里先で戦いを起こすとそこまで行き着くのは67人。

 

 

戦争は敵の裏をかくことが重要であり、利のあるところに行動し、分散や集合の形など様々な変化の形をとるものである。つまり、風のように迅速に進み、林のように息を潜めて待機し、火の燃えるように侵奪し、暗闇のように分かりにくく、山のようにどっしりと落ち着き、雷鳴のように激しく動く。いわゆる風林火山陰雷。

 

九変萹

 

常法にこだわらず臨機応変に取るべき9つの戦略

  1. 高い丘にいる敵は攻めてはいけない
  2. 丘を背にして攻めてくる敵を迎え撃ってはいけない
  3. 険しい地勢にいる敵には長く対応してはいけない
  4. 偽りの誘いの退却は追いかけてはいけない
  5. 鋭い気勢の敵兵を攻めてはいけない
  6. こちらを釣りにくる餌の兵士には食いついてはいけない
  7. 母国に帰る敵軍を引き止めてはいけない
  8. 包囲した敵軍には必ず逃げ道を開けておく
  9. 進退が極まった敵をあまり追い詰めてはいけない

 

 

頭の良い人間の考えは必ずメリットとデメリットの両面性を考える。

 

 

将軍の性質が原因で負ける5つの理由

  1. かけひきを知らず必死なこと→殺される
  2. 生きることばかり考えてて勇気がない→捕虜にされる
  3. 気短かで怒りっぽい→軽視される
  4. 利欲のないバカ真面目→騙される
  5. 兵士を愛しすぎてしまう→兵の扱いに苦労する

 

行軍萹

 

戦場では敵を観察してどのような行動を取るのか推測を立てることが重要である。

 

 

 

恩徳でなつけて、刑罰で統制をするのは必勝の軍の在り方

 

地形萹

地形の特徴を認識して、その地形にあった戦い方をするべき

 

 

兵士を労わること、愛情を持って接することは良いことだが、可愛がるばかりで命令をせず、刑罰も与えないでいるとその兵士は我がままな子供のように使い物にならない

 

 

 

味方に十分な力があったとしても、相手も力を持っていたとすれば必ず勝てるわけではない。敵も味方も環境も全てを知った上で戦いを起こさなければいけない。

 

九地萹

 

地勢の特徴を認識して、その地勢にあった戦い方をすること

 

 

仲の悪い2人の人を協力させるには、戦うしかない状況に置くことである。仲の悪い呉の人と越の人でも同じ船に乗って大嵐にあった場合は息を揃えて協力するはずである。

 

 

火攻萹

 

戦果のない戦争をしてはいけない。だらだらと戦争を続けることにも価値はない。

 

 

感情に任せて戦争を起こしてはいけなくて、利益のためにのみ戦争は起こすべき。

 

 

有利な状況であれば戦争を起こし、有利な状況でなければすぐさま撤退する。

 

 

怒りは時間によって忘れることができるが、滅んだ国は2度と立て直しが聞かず、死んだものは2度と生き返らない。だから感情で戦争をしてはいけない。

 

用間萹

 

敵を知るためには人を頼る。スパイを使ってこそ敵の状況を正しく知ることができる。

 

 

殺したい人や倒したい城・軍隊があったらその重要人物の姓名を知り、スパイを使って徹底的に調査させる。

 

ひとこと

 

孫子」から学んだ戦略において特に大事なことは4つ

  1. 行動を起こす前に自分、相手、環境について徹底的に分析すること
  2. 勝てそうな戦いを絶対に負けない方法で速やかに勝利を収めること
  3. 自分の戦略・本性を相手に知られないこと
  4. 感情ではなく、成功率と成功した時の利益を考えて行動を決めること

 

戦争に関する本なのに戦争中に関することよりも前準備や戦争を避ける方法について書いてあるのが興味深い。負けたら終わりの世界なので絶対に負けない方法を考えるというのは当たり前として、確実に勝てる時や追撃により得られるものがある時でもその想定利得と被害の大きさを考慮した上で判断するというのが勝つことではなくて利得を高めることを目的としていて戦争本では無いなと感じた。

利得はざっくり言うと「勝った時の利益×勝率+負けた時の損失×(1-勝率)-費やした時間・費用」のように書けるが、見積もりを立てるビジネス世界では無いだろうが普段の生活では最終項は見落としがちだから気をつけないといけないと再確認した。機会損失の考え方に近いものだがうっかり忘れがちなので。

 

 

せっかく漢文の資料なので書き下し文のままの形で孫武の思考や価値観が表れた有名なフレーズを味わいたい。これは情緒の問題だけではなく、文章よりもフレーズとして見た方が頭に入りやすいという実利的な面もある。 

  • 彼れを知りて己れを知れば、百戦して殆うからず
  • 凡そ用兵の法は、国を全うするを上と為し、国を破るはこれに次ぐ
  • 勝兵は先に勝ちて而るに戦いを求め、敗兵は先じ戦いて而る後に勝を求む
  • 人を致して人に致されず
  • 其の疾きことは風の如く、其の徐かなることことは林の如く、侵略することは火の如く、知り難きことは陰の如く、動かざることは山の如く、動くことは雷の如くにして、
  • 夫れ呉人と越人との相い悪むや、其の舟を同じくして済りて風の遇うに当たりては、其の相い救うや左右の手の如し
  • 百戦百勝は善の善なるに非ざるなり
  • 窮寇には迫ること勿れ
  • 兵とは詭道なり
  • 憤りを以って戦いを致すべからず
  • 敵を殺す者は怒なり、敵の貨を取る者は利なり
  • 始めは処女の如くにして、後は脱兎の如くにして