『服従の心理』S・ミルグラム
途中書き
ホロコーストの一翼を担ったユダヤ人を強制収容所へ輸送する列車の最高責任者アドルフ・アイヒマンは狂気的なサディストだと考えられるが、アイヒマン裁判に際して彼を調べ上げた結果、彼は全く”普通の人間”であった。この”普通の人間”アイヒマンは「命令に従っただけ」と裁判内で自分の無罪を主張しました。本書「服従の心理」では有名な「ミルグラム実験」を通して人間は権威に服従して道徳的に考えればありえない攻撃性を持った行動をとってしまう、つまり"普通の人間"である私やあなたも環境が違えばアイヒマンになっていたかもしれないという他人事ではない恐ろしい人間心理を暴く。
メイン実験
一般に「ミルグラム実験」と呼ばれる実験の詳細について紹介する
実験の前提
手順
場所はイエール大学の研究所。登場人物は「先生」役を務める被験者1人と「実験管理者」と「生徒」役を務める実験者2人。生徒役の実験者の方は被験者と同じ参加者として実験に参加して、つまり被験者と実験者の2人で実験を行う。
実験目的は「人が各種の事柄をどう学習するかについての理論を検証するために、学習において間違えた時の罰が学習者にどんな影響を与えるか調べたいので罰を与える先生役と問題を解く生徒役に別れる」と説明し、くじ引きによってどちらの役をするか決める。この時くじ引きには細工(両方「先生」と書いてある)がしてあり被験者が先生役を務める。つまり、罰を与える先生についての実験である。
実験の概要は生徒が問題を間違えたら先生が電流を流す罰を与える、間違える度に電流を大きくしていくがその時先生の行動はどう変わるかというものである。電流は15Vからはじめて450Vまで大きくする。
実験管理者からのフィードバックは次の4つを順番に投げかける。
- そのまま続けてください
- 続けてもらわないと実験が成り立ちません
- とにかく続けてもらわないと本当に困ります
- 他に選択の余地はないんです。絶対に続けてください。
また、
試行錯誤
はじめはボルトの数値・言語表示だけで権威に歯向かうには十分だと思っていたがこれだけだと全く権威に不服従する人間が現れなかった。なので被害者の声を聞かせることで不服従の可能性をあげることを目指した。これは一般の人間のみならず実験を考えた研究者自身も権威の力の強さを見誤っていたことを表している。
結果
- どれだけ感情的になっても敬語が途絶えることはなかった
サブ実験
本書では先のメイン実験含めて18の実験が紹介されている。特に興味深いものだけ簡潔に紹介する。
被害者との近接性
メイン実験では被害者の姿は見えない状態お互い別室で実験をしていたが、同じ部屋で声だけではなく苦しむ姿も見えるようにする。
この理由としては、①相手への共感が増した、②実際に人が苦しんでいることを確実に認識して意識外に置くことが難しくなった、③お互いに相手が見れることにより相互作用(相手に対する恥や罪悪感、報復の恐れ)が生まれた、④ボタンを押す行為と電撃が流れて被験者が苦しむ行為の行動の連続性を明瞭に認識した、などが考察されている。
権威者との近接性
自由に電流の大きさを決める
この実験が行われた理由は
学習者が
役割の入れ替え
直接手を下すのは別の人
考察①服従のプロセス
考察②緊張と非服従
服従のメリット
基本的には「服従は悪いもの」という前提で話は進むが、服従の心理とはそれが作り出すヒエラルキーが生存に有利だったから人間の心理特性として定着したのである。これは社会全体的な話だが個人にとって服従が有利に働くこともある。それは服従することで「考えるコストを削減することができる」ということだ。 自分の頭で考えることなく何でもかんでも服従していれば良いとは思わないが、何でもかんでも人の言うことを疑っていては時間が無くなってしまうのである。「服従」は裏を返せば「信頼」であるという言葉も紹介(ただし言っていたのはミルグラムじゃなくて訳者の山形さん)されていました。良いところと悪いところを考えて生きていくという目線も大事であろう。
ひとこと
服従の仕組み云々よりも心理学研究の面白さが詰まってるからみんな本買って読んでくれというのが感想です。仮説を立てて、それを検証するための実験方法を考えて、実験して考察して、さらなる仮説を立てる。本書ではこの繰り返しで18の実験が紹介されているが仮説・実験内容共に面白くここの思考プロセスをもっともっと深掘って知りたい。
実験結果のひとつとして、被験者インタビューもいくらか載せてあるがこれもとても興味深い。数字だけでは見えない人間らしい思考の変化に触れることができるし、共通点と相違点とそれを生み出す要因がありありと浮かび上がってくる。惜しいのはこれが英語で話されたインタビューの翻訳であること。日本で日本語で行われた実験であれば言葉のちょっとした違いなどを含めて私にとってもっと興味深いものだったんだろうと感じる。
テーマは権威による「服従」だが、実験インタビューなど被験者の発言を見ていると悪辣な行為を行った時の行動の自己正当化行動も
私がこの本を読んだ目的は「自分もしくは他人を服従させる方法」、「自分を服従から守る方法」 を学ぶためである。前者に関しては自分を自分に服従させることができたら正しいけどめんどくさい意思決定をするのがめっちゃ楽になり、女の子を服従させられたらえっちで嬉しい、後者に関しては自らがアイヒマンにならないため及び服従した方が良い場面と服従してはいけない場面を見極める視点が欲しかったからである。ということでこの本から学んだ服従させる、服従から逃れるため(こっちはほぼ書いてなかったから勝手に私が考えたものなのでふわふわしてる)の方針について簡単ににまとめる。
服従させて悪いことさせる方法
- 責任の所在を相手から取り除く
- その行動が正当となるような大義名分・価値基準を与える
- 権威のある肩書き、服装、行動、話し方を心がける
- 自分の持つ権威とつながる行動を命ずる
- 行動をすること/しないことに責任を感じさせる
- 簡単なことからはじめてあとは「はじめさせる」ではなく「続けさせる」
- 被害者の責任を強調する
- 被害者を見えない、認識させないようにする
- 間接的に悪いことをさせる
服従から逃れる方法
これができるならみんなしてるという話は自分で書いてて強く感じたが「権威による服従」という心理特性を知っていて、これを疑う姿勢を少しでも持っているというのは服従から逃れるちょっとした助けにはなると考えています。
まあ、でも対策側すごいふわふわしてるのでこれ逃れるの無理じゃね・・・???ってのが私の結論です。みなさん服従させましょう!!